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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
序曲
天の気の薄明に優しく会釈をしようとして、
命の脈が又新しく活溌に打っている。
こら。下界。お前はゆうべも職を曠うしなかった。
そしてけさ疲が直って、己の足の下で息をしている。
もう快楽を以て己を取り巻きはじめる。
断えず最高の存在へと志ざして、
力強い決心を働かせているなあ。
ファウスト第二部
序曲
六月十日 K…村にて
御無沙汰をいたしました。今月の初めから僕は当地に滞在しております。前からよく僕は、こんな初夏に、一度、この高原の村に来てみたいものだと言っていましたが、やっと今度、その宿望がかなった訣です。まだ誰も来ていないので、淋しいことはそりあ淋しいけれど、毎日、気持のよい朝夕を送っています。
しかし淋しいとは言っても、三年前でしたか、僕が病気をして十月ごろまでずっと一人で滞在していたことがありましたね、あの時のような山の中の秋ぐちの淋しさとはまるで違うように思えます。あのときは籐のステッキにすがるようにして、宿屋の裏の山径などへ散歩に行くと、一日毎に、そこいらを埋めている落葉の量が増える一方で、それらの落葉の間からはときどき無気味な色をした茸がちらりと覗いていたり、或はその上を赤腹(あのなんだか人を莫迦にしたような小鳥です)なんぞがいかにも横着そうに飛びまわっているきりで、ほとんど人気は無いのですが、それでいて何だか