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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
ようにいつも同じ二人の老嬢が住まっているのを何んとなく気づかわしげに見やっては、その二人暮らしに私はひそかに心をそそられたものだった。――だが、あれはひょっとすると私自身の悲しみを通してばかり見ていたせいかも知れないぞ?(と私は考えるのだった。)何故って、私がこの丘へ登りに来た時は、いつも私に何か悲しいことがあって、それを肉体の疲労と取り換えたいためだったからな。真白な名札が立って、それには MISS のついた苗字が二つ書いてあったっけ。……そう、その一方が確か MISS SEYMORE という名前だったのを私は今でも覚えている。が、もう一方のは忘れた。そうしてその老嬢たちそのものも、その一方だけは、あの銀色の毛髪をして、何となく子供子供した顔をしていた方だけは、今でも私の眼にはっきりと浮んでくるけれど、もう一方のはどうしても思い出せない。昔から自分の気に入った型の人物にしか関心しようとしない自分の習癖が、(この頃ではどうもそれが自分の作家としての大きな才能の欠陥のように思われてならないのだけれど、)この老嬢たちにも知らず識らずの裡に働いていたものと見える。