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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
そう、それ等の少女たちの形づくった生墻はちょうどお前たちにそっくりだったのだ! ……
私はその朝はどうしたのかクレゾオルの匂のぷんぷんするサナトリウムの手前から引返した。その向うには、その思いがけない美しさでひととき私の心を奪っていたアカシアの花が、一週間近い雨のためにすっかり散って、それが川べりの道の上にところどころ一塊りになりながら落ちているのがずっと先きの先きの方まで見透されていた。
それから数日間、こんどはお天気のいい日ばかりが続いていた。毎朝私は起きるとすぐその辺まで散歩に行った。しかし私はその花をつけた生墻の前にあんまり長いこと立ちもとおっていないで、それに沿うて素通りして来るきりの方が多かった。私は言わば、唯、その生墻に間歇的に簇がりながら花をつけている野薔薇の与える音楽的効果を楽しみさえすればよかったのであるから。だから或る時などは、それのみを楽しむために、私は故意とよそっぽを見ながら歩いたりした。
或る朝、私はそんな風にサナトリウムの前まで行ってすぐそのまま引っ返して来ると、向うの小さな木橋を渡り、いまその生墻に差しかかったばかりのレエノルズ博士の姿を認めた。