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うつくしいむら
美しい村
堀 辰雄
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 42,946 字 · 84 页
として立ち上った。見ると、それは一台の塵芥車だった。私は、とんでもないものがこんなところを通るんだなあと思いながら、道ばたの灌木の中へすっぽりと身体を入れながら、よそっぽを向いていた。が、その塵芥車がやっと私の背後を通り過ぎたらしいので何気なくちらりとそれへ目をやると、その箱車のなかには、鑵詰の鑵やら、唐もろこしの皮やら、英字新聞の黄ばんだのやら、草花の枯れたのやらが、一種汚らしい美しさで、ぎっしりと詰まっていた。そしてその車の通った跡には、いつまでも腐った果物に似た匂いが漂っていた。……私はこんな塵芥車のようなものにも、いかにもこの外国人の多い村らしい独得な美しさのあるのを面白がって、それをちょっと見送った後、再びさっきのアカシアの木蔭へぼんやり腰を下ろしていると、ものの数分と経たないうちに、私はまたしても私の背後へ近づいてくる車の音でもって、立ち上らなければならなかった。それもまた、前のとそっくり同じような、塵芥車だった。そしてそれから小一時間ばかりの間に、私はこの土手を通りすぎる同じような塵芥車を、ほとんど十台ぐらい数えることが出来た。――何処かこの先きの方にでも、きっとこの村の芥棄て場があるんだなと、それにはじめて気がつくや否や、私は漸っとのことで、このサナトリウムの土手がこんなに凸凹になり、汚らしく