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うつくしきつきよ
美しき月夜
宮本 百合子
「中央公論」1919(大正8)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,063 字 · 18 页
線路の傍に小さく建った番小屋の傍まで来ると、今までWに体を持せかけるようにしていたマーガレットは、急にぱっちりと眼を見開きながら身を起して、
「好い月ね」
と云った。広い鍔の陰から、丸い顎を仰向けるようにして朗らかな天を仰だ眼を落すと、彼女は、ちょっと眉を顰(しか)めるようにして、彼方に光っている鈍銀の窓々を見た。
静かな晩――W、汽車は大丈夫?
マーガレットのこの質問は、決して無意識ではない、彼等はもうさっきから、軌道(レール)の上に響いて来る、重い威圧的な機関車の音を聞いていたのである。Wはちょっと頭を廻して提灯の灯ほどに見える赤い前燈(ヘッドライト)と踰(こ)ゆべき軌道の幅とを見較べた、が、それだけの注意さえ、このときの彼には何となく滑稽に思われたほど、動いて来る燈と軌幅との差は大であった。不安を持とうにも、持ち得ないほど大きな差である。自分達の若い、健康な四本の脚が、この悦に満ちた晩に、どうしてこのたった五尺前後の空間を横切れないことがあろう。彼は、マージーの臆病を揶揄(やゆ)する少年のような声を挙げて、高々と笑った。
「大丈夫さもちろんマージー、さあ行こう」