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うまいとうふのはなし
美味い豆腐の話
北大路 魯山人
「星岡」1933(昭和8)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,850 字 · 4 页
なくなってしまった。
ところが、わずかに一軒、京都の花街、縄手四条上ルところに、昔ながらの方法を遵奉して、よい豆腐をつくっている家があった。その家の豆腐のつくり方は秘法になっていて、うかがわんとしても、うかがえないことになっていた。ところが、私は運よくその家の主人の了解を得て、家伝の秘法を授けられることになった。おかげで、本家本元の豆腐に優るとも劣らぬ豆腐ができるようになった。それも一に、私の家に豆腐に適するすばらしい良水が湧出したためであった。
いかに京都で秘法を授かって来ても、良水を欠いたら、いい豆腐はできなかったであろう。残念ながら、縄手のこの店も、今はなくなってしまった。
良水に恵まれ、原料としての大豆を選択して、製法は飽くまでも機械にたよらず、人力で努力することによって、私もすばらしい豆腐をつくれるようになった。豆腐そのものがよいから、生の豆腐にいきなり生じょうゆをかけて食べても、実に美味い。あえて煮るまでもない。焼き豆腐はいうに及ばず、揚げ豆腐に拵えても、飛竜頭に拵えても、これが豆腐かと疑われるばかりに美味かった。湯豆腐に舌鼓を打って楽しまんとする人は、こんな豆腐を選ばなくてはならない。