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びみほうだん

美味放談

北大路 魯山人

「星岡」1935(昭和10)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,841 字 · 16 页

青空文庫

するとある日課長に、君は実に贅沢じゃないか、といわれた。そこで僕はなにが贅沢なものですか、豆腐がいくらするというんです、おそらく誰よりも安いもので飯を食っているわけじゃありませんか。事実そのとおり安いもんだからね。ところが、豆腐はなるほど安いが、それを入れる容器が今いったような美術品だもんだから、傍からみるとまったく贅沢でもあり、またいかにもうまいものでも食っているように見えるんだね。だもんだから課長も、なるほどそりゃそうかも知れんが、その容れ物が第一立派じゃないかといって、それが贅沢だというんだ。今から考えてみりゃ余計なことだが、当時はそういうことをいった。そこで僕は、これは実は嘘だったが、なるほどギヤマンは贅沢かも知れないが、これは僕の家に昔からあるもんで、他の容れ物がないからこれを使っているんです、と抗弁した。実は、そのギヤマンというのはなけなしの小遣いをためて、当時の身分としては不相応の金を出して買ったんだから、このいいわけはインチキなんだけど、これで課長もなんともいえなかった。

要するに物を食うには、なければないでどこか風流だったんだろうね。