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びしょくななじゅうねんのたいけん

美食七十年の体験

北大路 魯山人

「芸術新潮」1954(昭和29)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,654 字 · 4 页

青空文庫

栄養薬とは病人をいよいよ病人にするばかりの不愉快きわまりないもの。もう一度いってみよう。栄養というものは人間が自己の欲求して止まぬところの美味。これを素直にとり入れ、舌鼓打ちながら、うまいうまいと絶叫し続けるところに、おのずと健康はつくられ、栄養効果は上がるのである。多くの実例が示すように、栄養食がまことにまずいものと評されているようでは、理屈通りの栄養効果は望めるものではなかろう。

食を説くかぎり食品そのものの持つ特質を鋭敏に察知し、そこから料理を工夫発見し、合法的に処理するなら、食ってうまい。うまければ栄養は申し分なく発揮され、身心爽快、健康成就と落ちつくのである。こうなれば料理の考え方も芸術的になり、おもしろくもなるというのである。世間のインチキ料理、でたらめ料理にごまかされて生活しておるとすれば、世の中が殺伐になるのは当たり前だ。「衣食足りて礼節を識る」は今日においても真実の言だ。わたしは、わたしの体験を誇りがましくいうつもりは毛頭ないが、今述べたような食生活を長々と続けた結果、わたしは七十余歳の今日まで、およそ病気らしい病気をしたことがほとんどない。