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ぐんしゅう

群集

豊島 与志雄

「中央公論」1919(大正8)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,675 字 · 10 页

青空文庫

それでも時々停車場を出入する者が、足早に空地を通りぬけていた。大胆に平気で歩を運ぶ者はこの場合善良な市民となるのであった。

私は平気でゆっくりと(多少故意に)その広場の中に歩み入った。誰も何とも云わなかった。兵士等の方へ一瞥を与えて、私は停車場の中にはいった。四、五人の乗客が居るきりでがらんとしていた。片隅には兵卒の背嚢や水筒などが地面にじかに並べてあった、規則正しく並べてあった。駅長室の前まで来ると、その扉に中隊長室と書いた紙片が貼りつけてあった。半ば開いた扉の隙から覗き込むと、長い口髯のある将校が椅子に腰をかけて、卓子の上に拡げた紙面をしきりに見ていた。平然たる横顔をしていた。

私は停車場からまた出て来た。出る時兵士等の方をじろりと見た。それから広場を横ぎって銅像の影まで来た時、も一度ふり返って兵士等の方を見た。彼等は顔の筋肉一つ動かさなかった。何を見てるのか視線をも動かさなかった。或はまた何も見てないのかも知れなかった。そのくせ、右の方の一隊は「休め」の姿勢で立って居り、左の方の一隊は銃を組んでその後に屈んでいた。そのままの姿で皆じっとしていた。