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よしつねのむすめ
義経の女
山本 周五郎
「少女之友」実業之日本社、1943(昭和18)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,735 字 · 8 页
そのとき千珠は、屋形の廂にいて、京から来た文を読んでいた。建久二年の、正月もまだ中ごろのことだったが、伊豆のくには暖かくて、簀子縁のさきにある蔀格子から、やわらかい午後の光といっしょに、さかりの梅の香が噎せるほどもよく薫ってきた。文のぬしは千珠にとっては義理の姉にあたり、讃岐といって、二条院に仕えているひとだった。歌人としても名だかいひとだけに、やさしく巧みな手つきで「去年十一月に都へのぼった頼朝の、参内の儀のゆかしく美しかった」ことや、「その供をしてのぼった兄の駿河守(広綱)にひさびさで逢えたよろこび」などを眼に見るように書きつらねたうえ「つたないもので恥かしいけれど」といって五六首の歌が添えてあった。千珠はそこまで読んできて、ふとその歌の中の一首につよく心をひきつけられた、それはふしぎなほど心をひく歌だったので、われ知らずそっと口のなかで繰り返してみた。
あと絶えて浅茅が末になりにけりたのめし宿の庭の白露
いかにもはかなく寂しげな詠みぶりである。口ずさんでいると、荒涼とした秋の野末に、たった独りゆき暮れたような、かなしいたよりない気持になって、千珠は思わずほっと太息をついた。