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ろうこうふとでんとう

老工夫と電灯

小川 未明

――大人の童話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,017 字 · 6 页

青空文庫

ひやりとした冷たい風が、どこからともなく吹いてきて、闇の中を過ぎていきます。それは、沈黙の世界に、なにか気味悪い思い出をそそらせようとするものでした。

この闇の中に、ただ一つ生きているもののごとく思われたものがあります。それは、半丁おきごとに点されている電燈でありました。

その光の弱い電燈は、闇の中をわずかに円く一部分だけ切り抜いたもののように、ほんのりと明るく浮き出していました。

この電燈の光は、生物の体内にある心臓のようなものです。点りはじめたときがあって、また終わりがあるのです。だれも、それを点けたり、消したりするものがないのだから、こうして点っているときは、電燈が生きているのでした。そして、暗く消えたときは、この電燈が死んだときなのであります。

冷たい風は、おびやかすように、電燈の面をなでていきました。心臓が規則正しく、生物の胸で打っている間に、いろいろな怖ろしい脅迫が肉体を襲うようなものです。しかし、電燈はあいかわらず、またたきもせずに点っていました。

このとき、年とった工夫は、トンネルの入り口にさしかかったのです。彼は、注意深く足もとを見つめて、一歩、一歩、拾うようにして、闇のうちへ吸い込まれるようにはいってきました。