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せいかぞく
聖家族
小山 清
「文芸 第十一巻第三号」河出書房、1954(昭和29)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,523 字 · 12 页
ヨセフは牛の頸に繋ぐ軛をこしらえていた。すると、傍の寝床の中で眠っていた息子のイエスが目をさまして、泣声をたてた。この寝床は、イエスがベツレヘムの馬小屋で生れたときに寝床の代りをした馬槽に模って、ヨセフがこしらえたものであった。ヨセフは手にしていた鋸を置いて、寝床のうえに屈んで、息子の顔を覗いた。イエスは父親の顔を認めて、泣きやんだ。ヨセフがあやすと、イエスは可愛い靨を顔に刻んで笑った。口もとが綻んで、もはや充分に発育した二本の可愛い下歯が見えた。ヨセフはイエスの目の中を覗き込んだ。イエスの目の中にヨセフの髯づらが小さく小さく縮小されて映っている。ヨセフにはそれがなにかの奇蹟を見るような気がした。ヨセフは自分の息子の目の中の自分の髯づらに挨拶するようにうなずいた。イエスは頻りに顔を動かし、寝床から躯を乗出すようにしたが、ふとまたべそを掻いた。母親を尋ねているのである。ヨセフが指で頬をなでると、瞬間機嫌を直したが、またすぐ泣顔になった。ヨセフは腕にイエスを抱きとって、その頬に接吻した。それはわが子を抱いたときに、いつも彼を襲う衝動であった。イエスは口をきつく結んで、強く首をふって、父親の愛撫にいやいやをした。