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せいかぞく
聖家族
小山 清
「文芸 第十一巻第三号」河出書房、1954(昭和29)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,523 字 · 12 页
「おもしろい父ちゃんね。」
マリヤも笑ったが、一瞬彼女は、あの空一面に星々の輝いた、わが子の誕生の夜のことを思い浮べた。
ヨセフは水瓶を手にとって提げ、妻子をかえりみた。
「さあ、お家へ帰ろう。」
「あら、瓶はわたしが持ちますよ。」
「亭主が提げちゃ、みっともないか。いいじゃないか。きょうがはじめてというわけでもないし。」
マリヤが身重であったとき、ヨセフは代りに水汲みをしたことがある。マリヤがイエスを身籠ったことを、はじめてヨセフに打明けたのも、この井戸のほとりであった。そしてまた、ヨセフがはじめてマリヤの頭上に毫光を認めたのも、そのときであった。そのときヨセフはマリヤの顔を見ながら、彼女がむかしから母親のような感じのする娘であったことに気がついた。そして自分がマリヤに惹かれたのも、彼女のそういう生れつきに対してだと思った。その後もヨセフは折りにふれて、マリヤの頭上に毫光を見た。そしてその経験は彼の心を一層慎しみ深くした。彼はそのことをひとり胸に秘めて、誰にも語らなかった。
次第に夕闇の濃くなって行く中を、夫婦は家路を辿った。マリヤはどちらかと云えば大柄な方で、ヨセフには似合いな配偶である。