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せいかぞく

聖家族

小山 清

「文芸 第十一巻第三号」河出書房、1954(昭和29)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,523 字 · 12 页

青空文庫

イエスはヨセフが木切に刻んだ羊に模った玩具を掌にして無心に遊んでいた。

「ばかに大人しくしているじゃないか。」

「坊やはこの玩具が気に入ったようですよ。たまには大人しくしてくれないと、ほんとに息がつけませんよ。」

ヨセフは妻子の傍に椅子を寄せて、それに腰を下して、聖書を繙いた。これはヨセフの日課である。ヨセフはいつもこの神の言葉を声に出して読んだ。ひとつは女房に聞かせるためであった。マリヤもそれを聞くことを好んだ。

「汝らの地の穀物を穫ときには汝等その田野の隅々までを尽く穫べからず亦汝の穀物の遺穂を拾うべからずまた汝の菓樹園の菓を取尽すべからずまた汝の菓樹園に落たる菓を斂むべからず貧しき者と旅客のためにこれを遺しおくべし」

このくだりをヨセフは繰返し読んだ。自分の声に自分が引込まれるような気がした。マリヤは碾臼を廻しながら、亭主の声に耳を傾けている。イエスは無心に羊の玩具を弄んでいる。このとき、ヨセフの、マリヤの、そしてイエスの頭上にひとしく毫光が認められた。けれども、三人のうち誰一人それに気づいたものはいなかった。すると、誰かが門口の戸を叩く音が聞えた。