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ききがきしょう
聞書抄
谷崎 潤一郎
谷崎潤一郎『聞書抄』。同一底本的分册已合并为一书。收入:聞書抄、覚海上人天狗になる事、紀伊国狐憑漆掻語、三人法師。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,821 字 · 210 页
三人法師
上
世に「三人法師」と云う物語がある。いつの時代の誰の作かは明かでない。萬治二年の版があるそうだが、作者はこれを国史叢書の中に収めてある活字版で読んだ。さしたる名文と云うのではなく、たど/\しい稚拙な書き方であるけれども、南北朝頃の世相が窺われる上に、第一の法師から、第二、第三の法師になるほど話が複雑で面白く、組み立てもまとまっているし、哀愁が心の全篇を貫いているところは文学的に相当の価値を認めてよい。ちょうど秋の夜の読み物には適していると思ったので、くどい所や仮名書きのために分らない所は省略もしたし、多少は手を入れたが、大体原文の意を辿って成るたけ忠実に現代語に直してみた。もしいくらかでも古い和文の文脈と調子とを伝えることに成功したら作者としては満足である。
上
高野の山へ集って来たからにはどうせ世を厭う人々ではありながら、同じ厭離の願いを遂げるにも座禅入定の法もあれば念佛三昧の道もある。山は廣いので思い/\の半出家たちが彼方此方に宿を求め、めい/\己れの性にかなった教について行を修めているのであるが、或る晩そう云う人たちが或る宿房へ寄り合った