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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

「おお、いやだ」

昨夜は成功しなかったから、もういちど、やってやれというわけか?

「あたしは殺される」

なんのためだか知らないが、そういう形勢になっているらしい。

いまになれば、思いあたるのだが、今朝、石倉が自転車でロッジへやってきたのは、当然、死んでいるはずの人間を、検察に来たのだ。久美子がガウンの裾をたくしあげながら玄関へ出て行くと、石倉は意外と失望のまじった、遣瀬ないような顔をした。表情がすべてを語っていた……

険呑な境涯に落ちこんだ。自分の力で身をまもるほか、やりようがない。暗くなるのを待って、夕食に出たものを裏の草むらに捨て、眠るとあぶないと思って、朝まで眼をあいていた。

翌朝、十時ごろ、隆と石倉がバンガローへやってきた。

「宇野さん、これから父の死体をあげますから、いっしょに船に乗ってください」

あまり悧口ではないようだ。もう、わかってもいいはずなのに、まだ、こんなことをいっている。

「なぜ、あたしがそんなおつきあいをしなくちゃ、ならないの」

「あなたは父の死際に薄情な真似をした。せめて、水から揚るところを、見てやってくれとおねがいしているんです」