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はだいろのつき

肌色の月

久生 十蘭

「婦人公論」中央公論社、1957(昭和32)年4~8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 50,706 字 · 101 页

青空文庫

そのときの印象は、もう助かりそうにもないように見えた……枕元のサイド・テーブルに下部鉱泉の瓶とコップが載っている……私がロッジに来る前に、鉱泉に催眠剤を仕込んでおいた奴がある。湖水の分れ道で君を拾ったことは、誰も知らないはずだから、目当ては、当然、私だったのだと思うほかはない……泊ってくれるだけでいいなどと、うまいことをいってひっぱりだして、私を殺して湖水に沈めるつもりだったんだ」

「その話は妙だわね。あたしはこうして生きているわ」

「ブロムラール系の催眠剤十五グラムは、健全な人間には致死量にならないが、特異質や身体異常者……たとえば、妊婦とか、心臓、腎臓の疾患者は、その量で簡単に死んでしまうというんだ。私のような冠疾患者があの鉱泉を飲んだら、当然、死んでいたろう」

「鉱泉を分析してみたわけでもないでしょう。そこまで考えるのは、すこし敏感すぎるようね」

「前例がある……兄の前の細君の琴子と、トンネル会社をひきうけていた水上という男が、催眠剤の誤用で死んでいる。琴子は妊娠中で、水上は腎臓をやられていた。君代ぐらい催眠剤を上手に応用するやつもないもんだ。感服するほかはないよ」