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かんぞうせんせい

肝臓先生

坂口 安吾

「文学界 第四巻第一号」1950(昭和25)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,194 字 · 46 页

青空文庫

その中でも一番大きい旅館が紫雲閣であるが、そこに宿泊していた傷痍軍人たちにチブスが発生した。軍医がしらべてみると、女中の一人が保菌者とわかり、そこで全従業員を隔離することゝなったのである。

ところが紫雲閣の主人がつらつら打ち見たところ、素人目とは云いながら、女中は顔も不健康とは思われず、動作におかしなところもなくて、どうもチブスらしく思われない。

そこで主人は女中をつれて赤城病院を訪れた。主人はわざとチブスのイキサツを隠して、ただなんとなく様子がすぐれないようだから、徹底的に調べていただきたいと申出たのである。

赤城先生は乞われるままに、シサイに全身を診察した。そして、病気は流行性肝臓炎ひとつだけで、他にどこも悪いところがないと見究めたので、

「しばらく注射と服薬して、食事に気をつけていれば、まちがいなく治りますよ」

と言ってやると、

「そうですか。本当に肝臓だけでしょうか」

紫雲閣の主人は、心配そうというよりも、真剣そのものの顔である。

「たしかに肝臓だけですとも。心配なさることはありません」

「チブスや赤痢ではないでしょうね」

「絶対に大丈夫」

「チブスや赤痢じゃないかと心配したのですよ」