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のうめんのひみつ
能面の秘密
「小説新潮 第九巻第三号」1955(昭和30)年2月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,440 字 · 35 页
ボンヤリと戻ってきました。奥さんからもたしかに退職手当に与えたものだと云われたのでしょう。ゆすっていたのはアイツか、信じられない、と呻くようにつぶやいて、どこかへ出かけましたのです。でね、ぼくは荷物をまとめて逃げだしてきたんですよ」
「意外きわまる話だね」
「あのウチにはまた何か起りますよ。とても怖しくて居たたまらなくなったんです」
完全に信じうるものをも疑えというのが、これも探偵小説の第一課だ。爺さんのアリバイは完全だった。疑う余地がなかった。しかし人為的に完全なアリバイをつくることも不可能ではないはずだ。
辻は乃田家へ急いだ。爺さんはよいゴキゲンで引越しの荷造りをしているところだ。辻の顔を見ると爺さんが先に声をかけた。
「やア、新聞屋さん。あの小僧の注進がありましたかい」
「まさにその物ズバリだね。二百万円の退職手当だってね」
「そうなんです。なんしろこちらへ御奉公してかれこれ三十七八年ですからね。よそはそれ以上の退職金をだしますよ」
「そんなことを人の耳に入れなくたっていいじゃないか」
「自慢話ですよ。正式にいただいたものを隠すことはないですよ」
「真夜中に窓の戸をたたいて秘密にいただき物をしてもかい」