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のうのなかのれいじん

脳の中の麗人

海野 十三

「日の出」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页

青空文庫

彼はびっくりして、吸殻を地上に放りだした。

「あははは、宮川さん。あなたは煙草を吸うようになりましたね、おそろしいもんだ」とつぜん背後から声をかけられ、彼は腰をぬかさんばかりにおどろいた。ぱっとベンチからとびあがってうしろをふりむくと、

「あっ、君は――」といった。

さっきの男だ。怪しいぎろぎろ眼玉の顔色のわるい、青年であった。

「君、君は一体だれですか」

宮川は、いつの間にか、またベンチに腰をおろしていた。蛇にみこまれた蛙といった態であった。

「僕ですか。僕をご存知ないのですか」

青年は、すこしずつ彼の方によってきた。

「知らないよ。人まちがいだ。早く向うへいってくれたまえ」

「そんなことをいうものじゃありませんよ。僕は矢部というものです。あなたはご存知ないかもしれないが、僕の方はよく知っています」

怪青年矢部は、つらにくいほど、ゆっくりした語調でいって、無遠慮に宮川の横にかけた。

「とにかく、僕は君に見覚えがない。たのむから、早く向うへいってくれたまえ」

「よろしい、向うへいきましょうが、ここまでついて来たには、こっちにすこし用事があるんです。金を五十円ばかり貸してください」