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のうのなかのれいじん

脳の中の麗人

海野 十三

「日の出」1939(昭和14)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页

青空文庫

全くおそろしいもんだ。あなたは煙草ずきになった。おかげで僕は煙草がたいへんまずくなってさびしい。この繃帯の下には、あなたと同じような手術の痕があるんですぜ。その下をあけてみると、僕の脳は、或る部分欠けているのです。僕は金のために、それをあなたに売ったけれど、その金を使いはたしてしまった今日、惜しいことをしたと後悔しています。近来、どうも身体の具合がよくなくていけないのです。美枝子にも会いたいと思うが、こんな身体だから、遠慮しているんだ」

矢部青年は、ひとりでべらべらととりとめもないことを喋った。

宮川には、矢部のいうことが腑におちないながらも気の毒になって、彼に金をやることにした。

矢部は、紙幣をありがたそうに頂いて、ポケットにおさめたが、そのあとで訴えるような目つきでいったことである。

「全くの話が、金に困って居らなければ――いや、美枝子という女を知らなかったら、僕の脳の一部を売ったりはしなかったんですよ。あんまりいい値段だったもんで、つい黒木博士のさそいにのっちまったんです」

宮川は、今やしみじみと、一年間の入院のあとをふりかえらずにはいられなかった。