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のうのなかのれいじん
脳の中の麗人
海野 十三
「日の出」1939(昭和14)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,774 字 · 28 页
自分がこうして再生して、全快するまでには、こうした大きな犠牲もあったのであるか。前代未聞の脳の売買だ。黒木博士は、やりもやった。またこの矢部青年も、よく売ったものである。
「一体、君はどの位の値段で、脳の一部とかを博士に売ったのですか」
「それは――」といいかけて、矢部は俄に口をつぐんだ。そして悲しげな顔になって、「それは云うのをよしましょう。とにかく莫大な金でした。大きな土地を買って、りっぱな邸宅をたてることができるくらいの金でした」
宮川は、脳の一部の値段が、そんなに高いものかと、聞いておどろいた。矢部の口ぶりからすれば、すくなくとも五六万円らしい。それだのに、彼は一年たつかたたないうちにその莫大な金を使いはたし、いまたった五十円の金に困って無心をしているのだ。なんとかいう女のためとはいえ、あまりにもはげしい金の使い方だった。宮川は、その点に不審をおこした。矢部のいうことは嘘言ではないか。
「いいえ、うそではありません。たしかにそれくらいの金は握ったんです。それをどうして使ってしまったというのですか。それはですね」と矢部は宮川の方へ顔を近づけていった。