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じさつをかうはなし
自殺を買う話
橋本 五郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页
喃、此処は此の老人に免じて、一先ず引上げて下さらんか? それも素手とは云わん、無理ではあるが金で辛棒して貰い度いんじゃどうかな?」
彼にはこの対応が、事実であるとは思えなかった。自身其処にありながら、何かの芝居を見ているような気がした。老人が、金を呉れることだけは解った。
「二百円下さい」
彼は思い切って云った。顔全体に血の上るのが感じられた。
「いや、よう聞き分けて下された、お礼を申しますじゃ。これで先ずわしの面目も立つと云うもの、では暫く――」
云い流して室を出たが、老人は直ぐに引返して来た。手には瑞曳をかけた部厚な紙包が持たれていた。
「些少ながら、これに金三百円ありまするじゃ。百円はわしの寸志、のお伴田さん、男子は何よりも気骨が大切じゃ。小さな事に有為な生涯を誤らないで、折角勉強して下さい」
彼は一度頭を下げると、おずおずと、冷え切った手先にそれを受け取り、以前の女中に案内されて玄関に出た。そしてすすめられる自動車を断り、駈けるような気持で町を電車通りへぬけた。
彼にはおぼろながら、その金子の意味が解ったような気がした。何か慌ただしい気持が腹の中で燃えた。