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じさつをかうはなし

自殺を買う話

橋本 五郎

「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页

青空文庫

あの婆やと二人切りの住居で、使いの安否を気づかいつつあろう青年伴田氏の、寂しい姿が想像された。いかにすべてを与えると約束されたにしろ、彼にはそのまま、何処かへ行ってしまう気にはなれなかった。それが最初からの考えでもあった。

彼は漸く、ガランとした郊外電車に身を委すことが出来た。

5

「ところがねえ、僕が伴田氏の家に帰って見ると、君――」

野々村君は、もう声に涙を含め、そこで言葉を途切らしたのだった。

「帰って見ると?」

つり込まれて、私は思わずこう訊き返した。

「――死んでいたんだ、恩人は死んでいたんだ、剃刀で咽喉を切って――。僕は、僕は身も世もなかった、死体に取りすがって埋もれる程泣きたかった――」

ふたりの間には、ながい間言葉がなかった。うそ寒いものが部屋に流れた。

「僕への遺書があってね、僕はそれで現在まで勉強することが出来た。今日こうして生活出来るのも、皆伴田氏のお蔭なんだ。それを思うと非常に心苦しいのだが、僕にもまた、伴田氏同様の運命が訪れている――」

流石に私も、自殺を買って呉れとは云い得なかった。私は友の身を気づかいながら、永久にその売手の現れないことを祈りながら、若しくはその借用者の、善良な女性の中に現れることを祈りながら、この哀しい友の家を後にしたのであった。