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じさつをかうはなし
自殺を買う話
橋本 五郎
「探偵趣味」1927(昭和2)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,685 字 · 16 页
だが彼としては、この不可思議な好意を受け入れる以前に何故この一面識もない青年紳士が、かくも異常な時間に、異常な場所に来合せ、しかも旧知以上の親切をもって、彼のこの、貧しさ寂しさを慰めて呉れるかを、考うべきではなかったろうか。
ふたりは、やがてその青年の住居へ来た。
3
青年の住居と云うのは、その鉄道線路を背景にした新開町の、樹木の多い高地にあって、新しい二階建の、隅から隅まで手の届いた、一見閑雅な建物であった。
ふたりが玄関の、スリガラスをはめた格子戸の前に立つと、「お帰りなさいませ」と、上品な婆やの顔が、それを内から開いて迎えた。
彼は二階の六畳に通され、そこで夕食のもてなしを受けた。その食卓がいかに善美に、その品々がどれ程美味に、この哀れなる者の涙を誘ったことであろう。だが彼は、思う三分の一も、それを咽喉に通すことが出来なかった。だが腹は一杯であった。
「君、ゆっくりやって呉れ給えよ」
そう促して、共に箸を手にしたのであったが、青年は至って物倦げな様子で、その貴族的な顔に疲れの色を浮べ、ほとんど食わないと云っていい位少食だった。そこには希望のない人間の、あのなげやりな様が窺われた。