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ほどう

舗道

宮本 百合子

「婦人之友」1932(昭和7)年1~4月号(著者検挙のため未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,745 字 · 70 页

青空文庫

男の社員も、目立つようなことがあってはいけませんから、その辺をどうぞ、と人事課から念を押されている。往来なんかではこれほどのことはないのだ。

急いで、やっともうあと半分というところまで打ったとき、

「ああ君、ちょっとこれをすまんが……」

モーニングを着た主任の馬島が、ミサ子のわきへ急ぎ足でやって来た。

「すまんが、これだけやっておいてくれたまえ」

拇指の腹をなめなめ、手をとめたミサ子の顔の横で厚い洋紙の頁をしらべた。調べ終ると、ミサ子は何とも返事しないのに、

「じゃ、ここへおいとくから……」

さっさと行ってしまった。チラリと、それを見たまんま、ミサ子は小さい椅子の上へ坐り直し力を入れてタイプライタアを打ちつづけた。

女事務員だけが何ぞというとダラダラ居残りをさせられる。しかも、それを断われないような工合になっている。男の社員と女の事務員との間に形式的な格の違いをつけ、事務以外の口を利いてはいけないことにしてあるのなど、なかなか会社のずるいところだ。

いつの間にか、女事務員のことについて口を出したりするのは、社員として見っともいいことじゃないという気風がしみ込んでいる。