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まいひめ

舞姫

森 鴎外

「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页

青空文庫

夢にも知らぬ境地に到りぬ。彼らの仲間には独逸新聞の社説をだによくはえ読まぬがあるに。

明治二十一年の冬は来にけり。表街の人道にてこそ沙をも蒔け、※をも揮え、クロステル街のあたりは凸凹坎のところは見ゆめれど、表のみは一面に氷りて、朝に戸を開けば飢え凍えし雀の落ちて死にたるも哀れなり。室を温め、竈に火を焚きつけても、壁の石を徹し、衣の綿を穿つ北欧羅巴の寒さは、なかなかに堪えがたかり。エリスは二、三日前の夜、舞台にて卒倒しつとて、人に扶けられて帰り来しが、それより心地あしとて休み、もの食うごとに吐くを、悪阻というものならんと始めて心づきしは母なりき。ああ、さらぬだに覚束なきはわが身の行末なるに、もし真なりせばいかにせまし。

今朝は日曜なれば家に在れど、心は楽しからず。エリスは床に臥すほどにはあらねど、小さき鉄炉の畔に椅子さし寄せて言葉すくなし。このとき戸口に人の声して、ほどなく庖廚にありしエリスが母は、郵便の書状を持て来て余にわたしつ。見れば見覚えある相沢が手なるに、郵便切手は普魯西のものにて、消印には伯林とあり。いぶかりつつも披きて読めば、とみの事にてあらかじめ知らするに由なかりしが、昨夜ここに着せられし天方大臣につきてわれも来たり。