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まいひめ

舞姫

森 鴎外

「國民之友第六拾九號」民友社、1890(明治23)年1月3日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,190 字 · 33 页

青空文庫

されどこれとてもその故なくてやは。

かの人々は余がともに麦酒の杯をも挙げず、球突きの棒をも取らぬを、かたくななる心と欲を制する力とに帰して、かつは嘲りかつは嫉みたりけん。されどこは余を知らねばなり。ああ、この故よしは、わが身だに知らざりしを、いかでか人に知らるべき。わが心はかの合歓という木の葉に似て、物触れば縮みて避けんとす。わが心は処女に似たり。余が幼きころより長者の教えを守りて、学びの道をたどりしも、仕えの道をあゆみしも、みな勇気ありてよくしたるにあらず、耐忍勉強の力と見えしも、みな自ら欺き、人をさえ欺きつるにて、人のたどらせたる道を、ただ一条にたどりしのみ。よそに心の乱れざりしは、外物を棄ててかえりみぬほどの勇気ありしにあらず、ただ外物に恐れて自らわが手足を縛せしのみ。故郷を立ち出づる前にも、わが有為の人物なることを疑わず、またわが心のよく耐えんことをも深く信じたりき。ああ、彼も一時。舟の横浜を離るるまでは、あっぱれ豪傑と思いし身も、せきあえぬ涙に手巾を濡らしつるをわれながら怪しと思いしが、これぞなかなかにわが本性なりける。この心は生れながらにやありけん、また早く父を失いて母の手に育てられしによりてや生じけん。