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あくたがわのげんこう
芥川の原稿
室生 犀星
「図書」岩波書店、1954(昭和29)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,159 字 · 5 页
まだそんなに親しい方ではなく、多分三度目くらいに訪ねた或日、芥川の書斎には先客があった。先客はどこかの雑誌の記者らしく、芥川に原稿の強要をしていたのだが、芥川は中央公論にも書かなければならないし、それにも未だ手を付けていないといって強固に断った。その断り方にはのぞみがなく、どうしても書けないときっぱり言い切っているが、先客は断わられるのも覚悟して遣って来たものらしく、なまなかのことで承知しないで、たとえ、三枚でも五枚でもよいから書いてくれるようにいい、引き退がる様子もなかった。三枚書けるくらいなら十枚書けるが、材料もないし時間もない、どうしても書けないといって断ると、雑誌記者はそれなら一枚でも二枚でもよいから書いてくれといい、芥川は二枚では小説にならないといった。先客はあなたの小説なら、元来が短いのであるから二枚でも、結構小説になります、却って面白い小説になるかも知れないといって、あきらめない、一種の面白半分と調戯半分に、実際書けそうもない本物の困り方半分を取り交ぜて、どうしても芥川は書けないといい、先客はやはりねばって二枚説を固持して、何とかして書いてくれといい張った。