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ばしょうについて
芭蕉について
宮本 百合子
「新女苑」1940(昭和15)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,634 字 · 14 页
と考え、
さは/\と蓮うごかす池の鯉
行水の捨てどころなき虫の声
なんと今日の暑さはと石の塵を吹く
というような純真な作品を生んでいる。釣月軒という常套的な俳号から宗房が桃青という号に改めた感情も、俳諧を言葉や思いつきの遊戯以上のものと感じた緊張がたたまれていて興味がある。桃青にとって追々俳諧は人生の遊びではなくて、人生そのものの芸術化として真剣に映って来ており、芸術の本質のその発展には、水道工事の小役人の暮しも深刻な現実のもののあわれによって彼を豊富にしたと云えるであろう。官吏として順当な出世が望めなくなったから俳道に身をうちこみはじめたというよりも、俳諧の道によってしか生きる心が表現出来ないと益々思いきめて、深川の杉風の鯉の生簀の番小屋に入ったとも思える。台所の柱に米が二升四合も入るぐらいの瓢をかけ、三方水で囲まれた粗末な小屋に芭蕉庵と名づけ嵐雪などと男世帯をもった三十七歳の桃青の心の裡は、なかなかの物すさまじい苦悩と模索とに充ちていたと想像される。「殊の外気詰り」なひとで、嵐雪も俳諧のほかは翁を外し逃げなど致候由、と二代目団十郎の書いたもののなかに語られている。