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はなとしょうじょ

花と少女

小川 未明

「赤い鳥」1924(大正13)年5月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,667 字 · 8 页

青空文庫

けれど、その花はさち子の大事な、大事な花でありましたから、

「たった一つしか、咲いていないのです。あなたにあげることはできません。」と、彼女は、断りました。

もし、その花を折って与えたら、二度と、その花は咲くことがなかったからです。それほど、枝は、細く、木は小さかったのです。

青年は、あちらへいってしまいました。ふたたび悲しい、魂までさらっていってしまいそうな、身にしむ唄の声がきこえました。ちょうど、月がかけて、暗くなったのであります。

その後、さち子は、幾たびこの夜のことを思ったかしれません。そして、あのとき、青年にばらの花をやったほうがよかったか、やらないほうがよかったかと惑ったのです。それほど、青年のうたった歌の声が、身にしみて取れなかったのです。

さらに、二年めには、赤い花も、白い花もみごとに開きました。そして、その花の盛りのころ、兄さんが都から帰ってきました。

兄さんは、ばらの花を見ると、たいそう喜びました。さち子は、兄さんを喜ばしたのを、なによりかうれしく思ったでありましょう。そして、はじめて、町からこの花を買ってきたときの悲しい思い出などにふけらせられたのです。