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はなさかぬリラ
花咲かぬリラ
山本 周五郎
「新青年」公友社、1946(昭和21)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,378 字 · 36 页
そして頸を絞めあげた。男はぐうと云った。来太の唇には例の胆の太い微笑が浮かんでいる。男はがくんとうなずいた。
「云いましょ、お嬢さんは……苦しい」
「云うなら楽にしてやるよ、そら」
「お嬢さんは」と、若者は絞められている喉をぜいぜいさせながら云った、
「西洋の尼さんになるだとおっしゃって、山沢の修道院へお入んなさったですよ」
「山沢というのはどこだ」
「ここから南へ二里ばかりいった所です、仙台から疎開して来たとかいうことで、そこにゃあ尼さんが大勢いましたっけ。へえ、私がそのときお嬢さんの供をしてめえったです」
「それを人に話してはいけないと止められていたのか」
「旦那さまは家から耶蘇の尼を出すなんて家名の恥辱だとたいへんなお腹立ちでした、もう杉浦の者ではない、親子の縁を切るとおっしゃったです」
来太は手を放し、若者を援け起こした。
「わかった、ありがとう」彼は若者の肩を叩き、無邪気な明けっ放しな表情でにっと笑った。
「乱暴なことをしてすまなかったな、しかしこれはさっき君が小突いた背中のお礼も含めてあるんだ、じゃあ失敬」
まだ痛そうに、片手で殴られた頬、片手で喉頸をさすりながら、若者は胆を抜かれたように見送っていた。