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はなこのちんじゅつ

花子の陳述

豊島 与志雄

「別冊文芸春秋」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 22 页

青空文庫

それは、たしかに、この花子が致したことでございます。けれど、悪意だとか企らみだとか、そのようなものは少しもありませんでした。ずいぶん辛抱したあげく、しぜんにあのようなことになりましたのです。

父の一周忌がすみましてから、二階の六畳と三畳の二室は、母のお友だちからの頼みで、須賀さん御夫婦にお貸し致し、母とわたくしは、階下の室だけでつましい暮しをしておりました。家は自分たちの所有でしたけれど、父の遺産も大してないらしいようでしたから、わたくしは女学校を卒業しますと、新制高校にあがるのをやめて、どこか勤め口を探そうかと思いましたが、母が反対しますし、また、母の身になってみれば、わたくしを外へ働きに出すのが淋しそうでもありますので、家にいることにしました。いったい母は、古風な人柄なのでございます。針仕事などの内職を致し、そしてわたくしには家事万端を仕込むつもりでいました。

そういうわけで、二階の室代として頂く月々の三千円は、たいへん家計の助けになったようでした。それに、須賀さん御夫婦も物静かなやさしいひとらしく、お仲も初めのうちはたいへん睦じそうに見えました。