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はなこのちんじゅつ
花子の陳述
豊島 与志雄
「別冊文芸春秋」1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 22 页
「マッチを下さい。」
その命令するような口調に応じて、マッチを取って来てやりますと、美津子さんは原稿の山に火をつけました。そしてわたくしの方は見ないで独り言のように言いました。
「この生い立ちの記に書いてあることを、電波で盗み取ろうとしています。早く燃やしてしまわなければ、すっかり盗まれます。手伝って下さい。庭中に撒き散らして、火事のようにして下さい。」
そして暫く、美津子さんは燃え上る火を見ていましたが、ふいにがくりとなって、地面に突っ伏してしまいました。わたくしが驚いて援け起しますと、大声で叫びました。
「燃やすんですよ。庭中を火事のようにするんです。」
わたくしは急に腹が立ってきました。火事と病気を用心しましょうという、平素のことも根にありました。この気狂女の言うままになったことが癪に障りました。逆に出てやれという気になりまして、有り合せの棒切れを取って、燃えさしの紙片をめちゃくちゃに掻き廻し、やたらに撥ね散らしました。その時のわたくしの気持ちこそ、全く狂気の沙汰でした。
その紙屑の火から、そばにあった物置が一つ焼けてしまうことになりました。物置の前に、まだ片付けてない炭の空俵や藁束などがありまして、それに火が燃え移りましたのを、わたくしはただぼんやり眺めていたのでございます。