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はなこのちんじゅつ

花子の陳述

豊島 与志雄

「別冊文芸春秋」1952(昭和27)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,726 字 · 22 页

青空文庫

良吉さんは平気でいたようですが、わたくしたちの方は、美津子さんのことを案ずる気持ちが次第に深くなってゆきました。

美津子さんはふらりと茶の間にはいって来て、五分間ばかり話しこむと、俄に思いついたように、また二階に上ってゆくことが、しばしばでした。そして三畳の方に引っこんで、せっせと原稿を書いてるようでした。良吉さんがいない時は、六畳の方で勉強していましたが、あとではもう、三畳の方しか使わなくなりました。そこは、腰高の壁の上に小さな窓があるきりで、縁側の障子をしめ切ると、陰気な薄暗い室ですが、その中に閉じこもって、ことりとの物音も立てないで、原稿を書いていました。

あの時など、美津子さんは顔色を変えておりて来ました。

「生い立ちの記を夢中になって書いていまして、ふと顔を挙げると、窓から誰か覗いていました。窓の障子の紙に小さな穴がありまして、そこにはっきり眼が見えました。きっと、わたしの原稿を盗み見していたに違いありません。障子紙がありましたら、少し下さいませんか。あの穴をふさいでやりますから。」

障子紙を貰って、二階に上ってゆきましたが、それきり、ひっそりとなってしまいました。