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げいじゅつがひつようとするかがく

芸術が必要とする科学

宮本 百合子

「都新聞」1936(昭和11)年7月3~6日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,183 字 · 12 页

青空文庫

心理学者は、たとえば、著者自身にふれている重要な事実――現代の一部の作家が心の内部へ内部へと掘り下げてゆく過程の叙述をのみ書きたがっているという現象について、それがいかなる心理的理由によるものか、それを科学的実験的に闡明してはいけないのだろうか。

「ユリシーズ」が、著者の如き分析力によってふわけされた上、昔は普通のスタイルで書いたジェームス・ジョイスが、なぜ欧州大戦後、人間意識の流れをこういう風に扱い出したか、その点を心理学的に究明することは、意味ないことであろうか。著者は、谷崎潤一郎が初期には具体的感覚的文章を書いたが最近は抽象的、概念的文章になったことを指し、偉大なゲーテもさような道ゆきをたどったといっている。六十八歳で歿したゴーリキイが晩年においては、最も概念的であるべき論説においてさえ、ますます具体性と輝やかしい感性とをもった文章を書き、世界の文化に尽したという全く対蹠的な一事実を、心理学者は何と分析するであろうか。私はそのような心理学者の出現をまつこと、実に切なるものがあるのである。〔一九三六年七月〕