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わかきひのジンギスカン

若き日の成吉思汗

林 不忘

――市川猿之助氏のために――

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 33,827 字 · 68 页

青空文庫

一同は口々に、「月だ、月だ、月が出た。」「さあ、出陣だ! 進軍だ!」と勢い込んでざわざわと起ち上り、月に向って立ち並ぶ。忽必来は長靴を穿き直し、武装を凝らして、速不台とともにしゃがみ、剣の先で地面に地図を描き、しきりに軍議を練りはじめる。

合撒児 木華里はまだ帰らぬな。者勒瑪、軍馬の様子はどうだ。これからただちに札荅蘭城を屠り、長駆、抗愛山脈を衝くのだから、稗でも藁でも、充分に食わせておくがよいぞ。

者勒瑪 (主馬頭)仰せまでもございません。馬という馬は、栗毛も葦毛も、気負い立って、あれ、あのように、早く矢を浴びたいと催促しております。

遠く近く、屯ろする軍馬のいななき。

合撒児 忽必来、進撃の前だ。点呼はまだか。

忽必来 は。もうすむころです。今にも報告がまいりましょう。

哲別 もうとうに月が上ったに、まだ木華里が帰らんところを見ると、降伏を拒絶したにきまっておる。合撒児様、殿に、進発の御催促を申し上げては。

汪克児 (跳び撥ねながら)月夜に釜を抜くというが、こちとら、月夜に城を抜く。

速不台 そうだろうと思った。無駄だろうと思った。あの札木合の奴が、女房を一晩こっちの陣営へよこすなどと、そんな条件を承知するはずはないのだ。