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わかきひのジンギスカン
若き日の成吉思汗
林 不忘
――市川猿之助氏のために――
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 33,827 字 · 68 页
成吉思汗 (静かに起って行って)太陽汗! (一白睨みで、虎は穏和しく立ち上り、木華里に続いて天幕の外に去る。月いよいよ照り返る)
成吉思汗 (元の天幕の出入口に帰り、床に坐る)ははははは、この成吉思汗には、あなたに対する私の心中の虎のほうが、あの太陽汗よりどんなに恐しいかしれない。いや、合爾合、なにも怖がることはないよ。
と膝を抱いて、月に見入る。どこからか兵士の奏でる胡弓の音が漂ってくる。姫は寝台に身を起して、じっと不思議そうに成吉思汗を見詰めている。長い沈黙がつづく。咽ぶような胡弓の調べ。舞台一面の青白い月光、やや傾きそめる。
成吉思汗 (ひとり言のように)あれから何年になるかなあ。君あ記憶えているかしら。まだ、僕のおやじ、也速該巴阿禿児が生きているころ、僕の家と君の家は、森ひとつ隔てていたねえ。
姫は意外な面持ちで聞き入っている。
成吉思汗 ええと、あの森は何てったっけな――何といったっけね、あの森は?
合爾合はつんと横を向いて、答えない。
成吉思汗 あの、ほら、真ん中辺に、こんな大きな樹が三本立ってる森さ。忘れた?
合爾合姫 (素っ気なく)存じません。
成吉思汗 そうかなあ。