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わかきひのジンギスカン

若き日の成吉思汗

林 不忘

――市川猿之助氏のために――

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 33,827 字 · 68 页

青空文庫

陣中日記でもつけるとしよう。

と呟きつつ、軍装の内懐から一冊の帳面を出し、月の光りで、いつまでも黙って読み耽っている。追憶で感傷的になった合爾合姫の涕泣きが高まる。成吉思汗は何も耳に入らないように、一心に読みつづける。長い長い間。合爾合姫は、懼れていたこともなく夜が明けたので、ようやく成吉思汗の意を悟り、静かな泣き声を放って寝台に伏す。月はすっかり落ち、もう砂漠の彼方に、早い蒙古の朝ぼらけが動き初める。今まで一望の砂原と見えたあたりに、斡児桓の川水が光って見えはじめる。

成吉思汗 (ふと暁の色に気づくが、振り返りもせずに)ああ、夜が明ける。乃蛮征伐第一の朝だ。ああ愉快だ。合爾合、おれは昔の羊飼いに返って、羊の群れを番するように、一晩君の身体を守り通したのだ。

合爾合姫 (寝台に起き上り)成吉思汗さま! あなたの真意は、よく解りました。それほどの深いお心とも知らず、妾はあなたを刺すつもりで――。(と懐中の匕首を抜き放ち、己が胸に突き立てようとする)

成吉思汗 (駈け寄ってそれを叩き落す)何をする! 君が死んでは、僕の志は無になる。さあ、朝になった。いま木華里に送らせますから、どうぞ、城中へお引き取り下さい。