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ちゃがゆのき
茶粥の記
矢田 津世子
「改造」1941(昭和16)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页
「ほう、いたずら書きがしてある。……何んだ、幾何の問題か」
「何せ、あれが中学さ入った年、買ってやったもんだから……」
「すると、もう二十六七年もたっていますのね」
清子も覗きに立った。
「気の利いた貉コだば化ける頃ですべ」
姑はこんなことを言って、二人を笑わせた。
荷物をくくり、あとは明朝のことにして西尾が帰ってしまうと、程なく、清子は姑を寝ませた。朝の早い姑のことだし、それにもう十時が過ぎていた。清子は手廻りの品々をズックの鞄に詰めながら、この家も今夜一と晩の名残りかと思うと、床に入りがたい思いがした。古びたこの家の、何がなし手垢の染みたような感じが、哀しかった。
清子は立って外し忘れた柱暦を一枚めくった。それからまた立って行って、玄関にたった一つ残っている白いセトモノの帽子かけにさわってみた。どこにも良人の俤があった。清子はその良人の背を軽くゆすぶって、
「もう、お別れよ、お別れよ」
と促した。良人の俤はやや猫背の、右の怒り肩をじっとしたまんま、いつまでもこの家に執心しているようにみえた。
ふと気づいて清子は床の間の、さっき西尾が置いて行った雑誌を手に取った。