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ちゃがゆのき
茶粥の記
矢田 津世子
「改造」1941(昭和16)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,568 字 · 30 页
乗ったが最後身動きが出来ないという。顔を曲げたら曲げっぱなしで運ばれて行く。小男の良人は人の息、それも味嗜汁臭い息を吐きかけられながら達磨になって凝っとしている。
「いっぺん連れてってやりたいよ。殺人的雑沓さ。お前さんなんか袖も何も引きちぎられちまう」
良人は得意なときには目玉を剥いて右の怒り肩をちょいと聳やかす癖がある。このときも清子は良人の剥き眼を見て、人混みに揉まれているのにこの人は一体何が嬉しいんだろうと、おかしな気がした。
良人のことで清子が苦労したことと言えば毎朝つめる弁当のお菜である。いくら塩鮭が好きだからといっても、そう毎日塩鮭ぜめにするわけにもいかない。惣菜屋から買ってきたものは良人が好まないので清子は前の晩からいろいろと頭を悩ませる。金ピラ牛蒡にしたり、妙り豆腐にしたり、前の晩自分の分をこっそり取りのけておいたコロッケなどを詰めてやったりする。時には良人も役所で饂飩をとって我れと我が身に奢ってやったが、「二杯も食われちゃ間尺に合わない」と饂飩好きな自分の口に厭味を言って、やっぱり塩鮭入りの弁当を持参した。
この弁当をつかうときが良人にとっての一番の楽しみだった。