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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
北斎及び広重らの江戸名所絵に描かれた所、これを文字に代えたならば、即ちこの一句に尽きてしまうであろう。
東京はその市内のみならず周囲の近郊まで日々開けて行くばかりであるが、しかし幸にも社寺の境内、私人の邸宅、また崖地や路のほとりに、まだまだ夥しく樹木を残している。今や工場の煤烟と電車の響とに日本晴の空にも鳶ヒョロヒョロの声稀に、雨あがりのふけた夜に月は出ても蜀魂はもう啼かなくなった。初鰹の味とてもまた汽車と氷との便あるがために昔のようにさほど珍しくもなくなった。しかし目に見る青葉のみに至っては、毎年花ちる後の新暦五月となれば、下町の川のほとりにも、山の手の坂の上にも、市中到る処その色の美しさにわれらは東京なる都市に対して始めて江戸伝来の固有なる快感を催し得るのである。
東京に住む人、試に初めて袷を着たその日の朝といわず、昼といわず、また夕暮といわず、外出の折の道すがら、九段の坂上、神田の明神、湯島の天神、または芝の愛宕山なぞ、随処の高台に登って市中を見渡したまえ。輝く初夏の空の下、際限なくつづく瓦屋根の間々に、あるいは銀杏、あるいは椎、樫、柳なぞ、いずれも新緑の色鮮なる梢に、日の光の麗しく照添うさまを見たならば、東京の都市は模倣の西洋造と電線と銅像とのためにいかほど醜くされても、まだまだ全く捨てたもので