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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
天気のよい時白帆や浮雲と共に望み得られる安房上総の山影とても、最早や今日の都会人には彼の花川戸助六が台詞にも読込まれているような爽快な心持を起させはしない。品川湾の眺望に対する興味は時勢と共に全く湮滅してしまったにかかわらず、その代りとして興るべき新しい風景に対する興味は今日においてはいまだ成立たずにいるのである。
芝浦の月見も高輪の二十六夜待も既になき世の語草である。南品の風流を伝えた楼台も今は唯不潔なる娼家に過ぎぬ。明治二十七、八年頃江見水蔭子がこの地の娼婦を材料として描いた小説『泥水清水』の一篇は当時硯友社の文壇に傑作として批評されたものであったが、今よりして回想すれば、これすら既に遠い世のさまを描いた物語のような気がしてならぬ。
かく品川の景色の見捨てられてしまったのに反して、荷船の帆柱と工場の煙筒の叢り立った大川口の光景は、折々西洋の漫画に見るような一種の趣味に照して、この後とも案外長く或一派の詩人を悦ばす事が出来るかも知れぬ。木下杢太郎北原白秋諸家の或時期の詩篇には築地の旧居留地から月島永代橋あたりの生活及びその風景によって感興を発したらしく思われるものが尠くなかった。