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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页

青空文庫

初夏の夕暮私は四谷通の髪結床へ行った帰途または買物にでも出た時、法蔵寺横町だとかあるいは西念寺横町だとか呼ばれた寺の多い横町へ曲って、車の通れぬ急な坂をば鮫ヶ橋谷町へ下り貧家の間を貫く一本道をば足の行くがままに自然とかの火避地に出で、ここに若葉と雑草と夕栄とを眺めるのである。

この散歩は道程の短い割に頗る変化に富むが上に、また偏狭なる我が画興に適する処が尠くない。第一は鮫ヶ橋なる貧民窟の地勢である。四谷と赤坂両区の高地に挟まれたこの谷底の貧民窟は、堀割と肥料船と製造場とを背景にする水場の貧家に対照して、坂と崖と樹木とを背景にする山の手の貧家の景色を代表するものであろう。四谷の方の坂から見ると、貧家のブリキ屋根は木立の間に寺院と墓地の裏手を見せた向側の崖下にごたごたと重り合ってその間から折々汚らしい洗濯物をば風に閃している。初夏の空美しく晴れ崖の雑草に青々とした芽が萠え出で四辺の木立に若葉の緑が滴る頃には、眼の下に見下すこの貧民窟のブリキ屋根は一層汚らしくこうした人間の生活には草や木が天然から受ける恵みにさえ与れないのかとそぞろ悲惨の色を増すのである。