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かつしかみやげ

荷風随筆集(上)

永井 荷風

永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页

青空文庫

という文字だけを読み得たばかり。境内の碑をさぐる事も出来ず、鳥居前の曲った小道に、松風のさびしい音をききながら、もと来た一本道へと踵を回らした。

小笹と枯芒の繁った道端に、生垣を囲した茅葺の農家と、近頃建てたらしい二軒つづきの平家の貸家があった。わたくしはこんな淋しいところに家を建てても借りる人があるか知らと、何心なく見返る途端、格子戸をあけてショオルを肩に掛けながら外へ出た女があった。女は歩きつかれたわたくしを追越して、早足に歩いて行く。

わたくしは枯蘆の中の水たまりに宵の明星が々として浮いているのに、覚えず立止って、出来もせぬ俳句を考えたりする中、先へ行く女の姿は早くも夕闇の中にかくれてしまったが、やがて稲荷前の電車停留場へ来ると、その女は電柱の下のベンチに腰をかけ、電燈の光をたよりに懐中鏡を出して化粧を直している。コートは着ていないので、一目に見分けられる着物や羽織。化粧の様子はどうやら場末のカフェーにいる女給らしくも思われた。わたくしは枯蘆の中から化けて出た狐のような心持がして、しげしげと女の顔を見た。

電線の鳴る音を先立てて、やがて電車が来る。