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かつしかみやげ
荷風随筆集(上)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(上)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葛飾土産、鐘の声、銀座、里の今昔、寺じまの記、伝通院、夏の町、日和下駄、深川の散歩、放水路、水のながれ、向嶋、向島、元八まん、霊廟。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,224 字 · 269 页
道の片側は鉄漿溝に沿うて、廓者の住んでいる汚い長屋の立ちつづいた間から、江戸町一丁目と揚屋町との非常門を望み、また女郎屋の裏木戸ごとに引上げられた幾筋の刎橋が見えた。道は少し北へ曲って、長屋の間を行くこと半町ばかりにして火の見梯子の立っている四辻に出る。このあたりを大音寺前と称えたのは、四辻の西南の角に大音寺という浄土宗の寺があったからである。辻を北に取れば竜泉寺の門前を過ぎて千束稲荷の方へ抜け、また真直に西の方へ行けば、三島神社の石垣について阪本通へ出るので、毎夜吉原通いの人力車がこの道を引きもきらず、提灯を振りながら走り過るのを、『たけくらべ』の作者は「十分間に七十五輌」と数えたのであった。
長屋は追々まばらになって、道もややひろく、その両側を流れる溝の水に石橋をわたし、生茂る竹むらをそのままの垣にした閑雅な門構の家がつづき出す。わたくしはかつてそれらの中の一構が、有名な料理屋田川屋の跡だとかいうはなしを聞いたことがあった。『たけくらべ』に描かれている竜華寺という寺。またおしゃまな娘美登里の住んでいた大黒屋の寮なども大方このあたりのすたれた寺や、風雅な潜門の家を、そのまま資料にしたものであろうと、通るごとにわたくしは門の内をのぞかずにはいられなかった。