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くさもみじ
荷風随筆集(下)
永井 荷風
永井荷風『荷風随筆集(下)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:草紅葉、西瓜、梅雨晴、正宗谷崎両氏の批評に答う、裸体談義。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,512 字 · 63 页
意外の発見である。殆ど思議すべからざる事実に逢着し得たのである。しかしこの伝統もまた三月九日の夜を名残りとして今は全く湮滅してしまったのであろう。
○
この夜吉原の深夜に見聞した事の中には、今なお忘れ得ぬものが少くなかった。
すみれという店は土間を間にしてその左右に畳が敷いてあるので、坐れもすれば腰をかけたままでも飲み食いができるようにしてあった。栄子たちが志留粉だの雑煮だの饂飩なんどを幾杯となくお代りをしている間に、たしか暖簾の下げてあった入口から這入って来て、腰をかけて酒肴をいいつけた一人の客があった。大柄の男で年は五十余りとも見える。頭を綺麗に剃り小紋の羽織に小紋の小袖の裾を端折り、紺地羽二重の股引、白足袋に雪駄をはき、襟の合せ目をゆるやかに、ふくらました懐から大きな紙入の端を見せた着物の着こなし、現代にはもう何処へ行っても容易には見られない風采である。歌舞伎芝居の楽屋などにも、こういう着物の着こなしをするものは、明治の時代の末あたりから既に見られなくなっていた。わたくしは仲の町の芸人にはあまり知合いがないが、察するところ、この土地にはその名を知られた師匠株の幇間であろうと思った。