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おちたままのネジ

落ちたままのネジ

宮本 百合子

「時事新報」1936(昭和11)年10月6~8日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,144 字 · 9 页

青空文庫

、面倒な理解の混乱が生じ勝ちであり、後者に反撥して自我を主張することから、逆に、最も保守的なものへころがり込む場合さえあるのである。

私は、フランスをとおり、ソヴェトをぬけて帰って来た横光利一氏が、今後どんな風に人及び作家として展開してゆくかという点に、或る興味をもっている。横光氏は、作家としての出発当時、先ずその時分支配的であった小説における志賀直哉氏の影響を反撥することから、歩み出したということをきいたことがある。そのようにして歩き出したこの作家は「上海」を意味深い転期として、いわゆる「流行」にまけることを潔しとせず、プロレタリア文学に反撥する強力な緊張で「寝園」「盛装」に到る境地を築き上げて来た。彼の見事さというものは、謂わば危くも転落しそうに見える房飾つきの水盃を、百尺竿頭に保っている、その際どいかね合いで、拍手は、その緊張に対し、そのサスペンスの精力に対してなされた。

素朴な云い方をもってすれば、私は、石坂洋次郎氏や横光氏その他の野望的な作家が、プロレタリア文学に対立することで、実はプロレタリア文学を敗北せしめたと全く同じ性質の日本的事情に、形こそ違えやっぱり小股をすくわれていたのだという事実に対して、人間らしく、口惜しがってほしいのである。