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ヒューネラル・マーチ
葬送行進曲
野村 胡堂
「文芸倶楽部」1931(昭和6)年4月増刊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,494 字 · 25 页
密告書は通常の安用箋へ郵便局備付の墨汁で書いた物で「棚橋讃之助の一子隆の死亡は、他殺に相違ない。火葬にする前に一応検屍しなければ、重大な手落になるだろう」と言った文句が、少し乱暴な字ではあるがかなりの達筆で書いてあったのです。
併し警察医の丁寧な検屍も、結局は何んの得るところもありませんでした。死体には鵜の毛で突いた程の外傷もなく、鬱血も、斑紋も、苦悶の跡も無いばかりでなく、毒物で殺したという疑も絶対にありません。反対に酒井主治医の説明で、日頃肺門淋巴腺が腫脹して居たことや、胃腸の弱かったこと、ヒポコンデリーの症状のあったことなどが解って、警察医も心臓麻痺という以外には、判断の下しようが無くなってしまいました。
「此上は解剖して見るんですね、併し解剖しても恐らく無駄でしょう」
警察医が斯んな事を言うのですから、まるで問題になりません。
「密告書には何うかすると、筋の悪いのがあるからなア」
司法主任も甚だ気が乗りません。
念の為、家族全部を調べて見ましたが、疑われるような人は一人もありません。音楽会の帰り、此処まで一緒に来た酒巻ドクトルは、暫らく無駄話をして十一時に立ち去り、主人讃之助夫婦は、それと同時に寝室に引取りました。