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れんげず
蓮花図
宮本 百合子
「アサヒグラフ」1927(昭和2)年9月7日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,591 字 · 6 页
一人で、さっぱりした座敷の真中に小机を持ち出し書類を調べているひっそりした姿も見た。女気がない。
時々、若い女の人が前栽に見えたり、
「たくさん買っていらっしたのね、おじいさん、五十銭!」
などという声が聞えた。土曜から日曜にかけては、男の児が遊びに来た。尺八を吹く男の人も来たし、犬も来る。賑やかなのは一時で、然しじきもとの独り住みの静けさに戻る。ダリアの盛りの頃、私共はその若い女の人から一束の美しい花を貰った。夜にでもなれば、互に互の灯かげを眺めて暮しながら、そうはかばかしくは口もきかない、そういう交際のうちに、三月ばかり前、突然おじいさんは引越しをしてしまった。
そこがおじいさんの隠居所で、永く住む人と思っていたのが或る朝荷物を運び出し、やがて人夫が来て物干の杙を倒し始めた。人夫が働くのがひどく淋しかった。生活がそこにないという前の棲み主の心持が露骨に働いているようなのであった。
丁度、今年の若竹が育つ盛りの時分で、おじいさんの庭にもはぐれて生えた数本の若竹があった。日毎に、日の光を梳いてあつみの増すそれ等の若竹の葉越しに、私共は毎日雨戸をしめた裏の家の軒下を眺めて暮すことになった。